森の「落とし文(おとしぶみ)」

この時期、森を歩いていると、写真のような丸まって巻物のようになった葉っぱが落ちているのを見つけることができます。自然に丸まって落ちた?それとも誰かのいたずらでしょうか。昔の人はこの葉っぱの巻物を、他人にバレないように道に手紙を落として人に渡した「落とし文」に例えました。昔の手紙は巻物の形をしていたので、ちょうどそういうふうに見えたのでしょう。

 実はこの「落とし文」を作っているのはそのままズバリ「オトシブミ」という名前の虫なのです。ちょっと失礼して巻かれた葉を広げてみると、小さなイモムシのような虫が入っていました。これはオトシブミの幼虫で、「落とし文」に見えたのは幼虫が入るゆりかごだったのです。オトシブミは葉っぱを巻いてそこに卵を生み、地面に落とします。卵からかえった幼虫はこの葉っぱのゆりかごの中を食べ、ゆりかごに守られながら中で蛹になり、成虫になってゆりかごに穴を開けて出てきます。「落とし文」はオトシブミの幼虫にとって、食料でもあり、隠れ家でもあるのです。

 この「落とし文」、広げてみると何かでくっつけたり、糸で巻いたりしているわけではなく、折り紙のように葉っぱを折るだけで作られているのがわかります。「落とし文」が4~8cmくらいなのに対して、オトシブミの成虫は1cmもないくらいの大きさ。自分の何倍もの大きさの葉っぱを折り曲げて「落とし文」を作るパワーと器用さには驚きます。

 オトシブミの仲間は代表種の「オトシブミ」の他にも色々な種類がいて、それぞれ「落とし文」を作る植物の種類や作り方、形が違います。中には落とさずに木につけたままにしておく種類もいます。森を歩いて、いろんな「落とし文」を見つけてとってきて、どんなオトシブミが出てくるか観察してみても面白いかもしれませんよ。

 

十勝毎日新聞2016年6月掲載(サトウ)